1.棕櫚箒には、「棕櫚鬼毛箒(本鬼毛箒・鬼毛箒)」と「棕櫚皮箒」の2種類があります

下の写真の左が棕櫚鬼毛箒で(写真は鬼毛箒の中でも「本鬼毛箒(ほんおにけぼうき)」とよばれる最上質の棕櫚箒)、右が「皮箒(かわぼうき)」という棕櫚箒です。

本鬼毛箒や鬼毛箒・皮箒も、いずれも原料は棕櫚の木の皮ですが、元々の皮自体の繊維の太さや質、製法や耐久性、掃き心地が異なります。

また、作りを細かく見ると、本鬼毛箒と鬼毛箒は箒穂先が、根元からすべて1本1本バラバラになった棕櫚繊維を束ねてできています。

皮箒は、木から剥いた自然の皮をそのまま丸めた束で出来ており、穂先を端から半分くらいまでほぐして掃き心地を良くした素朴な箒です。

鬼毛箒と皮箒

 

棕櫚箒(しゅろほうき)は名前のとおり、棕櫚の木の皮を穂先の素材に使った和箒です。日本で古くから使われてきた和箒のひとつで、いつの時代から作られたのかはっきりしませんが、江戸時代後期1800年代になって登場したホウキモロコシ(ホウキ草)の箒よりも歴史はずっと古く、かつては全国各地に職人がおり、地方ごと、職人ごとに特色のある形の棕櫚箒が生まれました。

 

原料の棕櫚皮の繊維は、数ある天然繊維の中でもすぐれた性質があり、細く弾力があってしなやかで、耐久力・荷重力が強く、水の中でも腐りにくく、古くから魚網や船具、運搬・荷造り用、建築用として、綱や紐に盛んに利用されました。棕櫚箒や棕櫚タワシもこの棕櫚の特性を生かして作られており、自然素材でありながら丈夫で長持ちします。(原料の和棕櫚の皮や繊維は、近年国内産の上質なものは手に入らず、残念ながら数十年前から中国からの輸入に頼っています)

鬼毛素材イメージ画像 鬼毛箒の原料となる棕櫚繊維(本鬼毛・鬼毛・太市)

棕櫚皮素材イメージ画像 皮箒の原料となる棕櫚皮

棕櫚箒3種イラスト画像  2.棕櫚箒のサイズは、「長柄箒」・「手箒」・「荒神箒・小箒」の3種類があります

棕櫚箒3種類イメージ画像

左:荒神箒(3玉柄付)/ 中:手箒(鬼毛・特選)/ 右:長柄箒(鬼毛・特選) いずれもヒノキ柄

棕櫚箒の大きさは3種類に分類されます。一番大きく長い箒は、両手で持つ「長柄箒」、その半分程の全長で、片手で持ち腰を少しかがめて使う「手箒(短柄)」、手箒よりも小さい箒は「荒神箒」または「小箒」とよびます。

 

もし一軒家で棕櫚箒を使うなら、この3種類を1本ずつ揃えれば、家の中の掃きそうじはほとんどカバーできるでしょう。小さな家やアパートなら、手箒と荒神箒、または、幅の小さい長柄箒と荒神箒のいずれかの組み合わせで揃えれば充分です。

棕櫚箒がはじめて、など、気軽に使ってみたい、というお客様には、まずは荒神箒をおすすめしています。長柄箒や手箒もいいですが、日常生活で意外と重宝するのが荒神箒(小箒)です。家の中の何箇所か、埃の溜まりやすいポイントの近くや、いつも手の届く所に吊るしておくと、ちょっとした掃除に大変便利です。

3.棕櫚鬼毛箒(本鬼毛箒・鬼毛箒)と棕櫚皮箒を、くわしく比較していきます

棕櫚鬼毛・皮比較画像

棕櫚箒穂先の比較 左:棕櫚鬼毛箒/右:棕櫚皮箒
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棕櫚箒・ホウキモロコシ比較画像

箒穂先の比較 左:ホウキモロコシの箒/中:棕櫚鬼毛箒/右:棕櫚皮箒
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棕櫚本鬼毛箒・鬼毛箒・棕櫚皮箒も、原料はどれも棕櫚の木の皮です。

本鬼毛箒・鬼毛箒の原料の棕櫚繊維も、棕櫚皮をほぐして繊維のみに加工したものですから、元々は棕櫚皮です。

 

それではどんな棕櫚皮でも、ほぐして繊維に加工すると鬼毛箒の原料になるのか、あるいは、棕櫚皮箒の穂先を根元までほぐすと棕櫚鬼毛箒になるのか、というと、そうではありません。

 

左の画像(上)は鬼毛箒と皮箒の穂先を拡大したものです。

鬼毛箒と皮箒で、繊維の太さや色味が若干違うのがご確認いただけるでしょうか。

また、左の画像(下)では、一般的なホウキモロコシの箒(他社製)と、鬼毛箒、皮箒の穂先を比較しています。左のホウキモロコシの繊維が一番太く、鬼毛箒、皮箒と順に繊維が細くなっているのが分かります。繊維の密度も異なります。

 

掃き心地は、ホウキモロコシの箒はバネのようなコシがあり掃きやすく、棕櫚鬼毛箒はホウキモロコシの箒よりも繊維が密で穂先に厚みがあり、より柔らかく床を撫でるようにして掃き寄せます。皮箒は鬼毛箒よりもさらに繊維が細く、掃き心地は最も柔らかです。いずれの和箒も、畳やフローリングの掃除に適しており、床材を傷つけず埃をよく集めます。

 

また、本鬼毛箒・鬼毛箒・皮箒は繊維の質・太さ・硬さが違う分、本鬼毛箒が最も長持ちし、次に鬼毛箒と続き、皮箒は鬼毛箒の半分程の耐久年数といわれています。

「一生に3本あれば足りる」といわれる棕櫚箒は、「本鬼毛箒」のことです。

本鬼毛箒や鬼毛箒の原料として使える、長く太くまっすぐな繊維をもつ棕櫚皮は元々の数が少なく割高で、箒に加工するにも皮箒の何倍もの時間と手間がかかるため、本鬼毛箒や鬼毛箒の価格は昔から高価です。

 

「本鬼毛箒」は「本鬼毛または鬼毛」とよばれる、1枚の棕櫚皮から数本しかとれない本物の鬼毛のみを1本ずつ手で抜き集めて束ねる製法で、通常の鬼毛箒の倍以上の製作時間がかかります。本鬼毛箒は、穂先の棕櫚繊維に含まれる本鬼毛(鬼毛)の量が最も多いため、最も丈夫で美しく長持ちします。掃き心地は棕櫚箒の中で一番コシと弾力があります。

通常の「鬼毛箒」は本鬼毛箒と異なり、本鬼毛(鬼毛)を手で抜き集めることはせず、太い繊維の皮をほぐした状態(本鬼毛・鬼毛・その他の柔らかい繊維が混在した状態で「タイシ」といいます)の繊維をそのまま束ねて作ります。穂先の繊維の質や、含まれる本鬼毛・鬼毛の量は、ほぐす前の皮の個体差により変わるため、品質が揃った箒を作るには熟練の技術が必要です。掃き心地は、本鬼毛箒と皮箒の中間で、柔らかいコシと弾力があります。

昔は「棕櫚鬼毛箒」といえば「本鬼毛箒」だけのことをいい、今の通常の鬼毛箒は、昔は「タイシ箒」と呼ばれていました。本鬼毛箒の製法があまりに手間がかかるため製造が途絶えた後で、 タイシ箒を「鬼毛箒」とよぶようになりました。

棕櫚箒製作舎では2012年に本鬼毛箒の製法を再現し、製作しお届けしている鬼毛箒はすべて「本鬼毛箒」です。

4.棕櫚箒の魅力とは  「棕櫚箒で掃くと埃が舞い上がりにくく、細かい埃もよく集まる」といわれています

横から見た棕櫚箒

棕櫚箒を横から見たところ 左:皮箒/ 右:鬼毛箒

棕櫚箒の魅力とは

私共の考える、また、お客様の声から抜粋した棕櫚箒の魅力です。

・見えるところに吊るしておいて、気軽にいつでも使える

 掃除機もよいですが、箒で2、3分掃くだけでもずいぶん綺麗になるものです。

 棕櫚箒は置き場所をとらず、人目に触れてもさほど見苦しくないので、いつでも手にとれる場所に吊るして置けます。

 電気を使わず、モーター音がないので、思い立ったらいつでも気楽に掃除ができます。夜でも、赤ちゃんが寝ている合間でも静かに掃除が可能で、掃除をしたくてもできないストレスがなくなって嬉しい、とのお声をいただいています。

 

・棕櫚箒は自然素材で、丈夫で長持ちし、掃きやすい

 棕櫚箒は数百年の歴史があるといわれる日本の伝統的な箒で、和箒の中でも棕櫚箒は耐久年数が長く、丈夫で長持ちするといわれています。

 使い心地が柔らかく掃きやすいというお声をたくさんいただいています。

 棕櫚箒は静電気が発生しないので、箒穂先に絡まった埃は簡単に落とせます。

 

・床材(畳やフローリング)にやさしい

 棕櫚箒は床材が傷つかないので、長年棕櫚箒と雑巾での掃除を続けると、床材の自然な艶を引き出すといわれています。

 

・棕櫚箒を使うと気持ちがよい

 お客様から「棕櫚箒を使うと嬉しい」「掃除が楽しくなった」「使うたびに気持ちがいい」など嬉しいお声をたくさんいただいています。実際、棕櫚箒で掃き掃除をした畳やフローリングを素足で歩くと不思議とサラリとして心地がよいです。また手仕事の物を使うよろこびも魅力のひとつかもしれません。

 

「棕櫚箒で掃くと埃が舞い上がりにくく、細かい埃もよく集まる」といわれています

 「棕櫚箒で掃くと埃が舞い上がりにくく、細かい埃もよく集まる」といわれるのは、ホウキモロコシと比較して棕櫚繊維が細く、箒にした時、より密度のある細い繊維の束になるので、より細かい埃を集めることができるのだろうと考えられています。棕櫚箒を横から見ると穂先が広がってボリュームがたっぷりとある姿をしています。ホウキモロコシの箒も掃きやすい優れた箒で、バネのような強いコシがあり、すみにたまった埃も力強く掻き出し、掃き出しもしやすいです。棕櫚箒は繊維が細いぶん、ホウキモロコシのように弾力を生かした掃き方はできず、適度なコシで撫でるような掃き方をします。結果として、より静かな掃き方になりますので、比較すると埃が舞い上がりにくいといわれています。(現実には、人が動き箒を動かせば、まったく埃が舞い上がらない事はあり得ません。綿埃はフワフワと逃げてしまうこともあります。)

5.棕櫚箒は室内用の座敷箒で、本鬼毛箒・鬼毛箒・皮箒も畳やフローリングの掃除に適しています

鬼毛箒畳イメージ画像

鬼毛箒で畳の目に沿って掃きます。心地よい掃き音がします。

昔から、特に「畳には棕櫚箒(本鬼毛箒)」といわれています

昔から関西では「畳には棕櫚箒(本鬼毛箒)」といわれ、畳を掃くというお客様には必ず本鬼毛箒をおすすめします。なぜ本鬼毛箒が畳に最適とされてきたのか。古くから、本鬼毛箒を使い続けた畳は艶が出るといわれてきました。本鬼毛箒は繊維の細さ・しなりが畳の目にちょうどフィットし、畳の目に沿って掃くことで効率よく掃き掃除が出来ます。また棕櫚箒は畳表を傷つけることがありませんので、棕櫚箒での掃き掃除と雑巾がけの繰り返し、そして人が歩くことによって少しずつ畳が磨かれ、年月と共に畳に自然な飴色の光沢をもたらし、畳を美しく長持ちさせるといわれています。

本鬼毛箒や鬼毛箒は、フローリングにも適しています

畳に用いた場合と同様の効果はフローリングにも期待できます。無垢のフローリングを棕櫚箒で掃いた後に素足で歩くと、サラリとしていて気持ちがいいです。

 

 

皮手箒フローリング画像

手箒の穂先は斜めになっており、壁際にもフィットしやすい形です

棕櫚皮箒も、畳にもフローリングにも適した箒です

棕櫚皮箒は、鬼毛箒よりも繊維が細く、掃き心地が大変柔らかく、畳や床を撫でるようにしてゴミを掃き寄せます。パウダー状の埃も綿埃も髪の毛などもよく集めます。

昔から本鬼毛箒や鬼毛箒は高価でしたから、一般に広く普及していたのは皮箒の方です。皮箒も、畳にもフローリングにも使われますが、「畳を磨く」効果は本鬼毛箒や鬼毛箒ほどはないとされ、耐久年数も半分程度か、粗い皮を使用した皮箒はそれ以下とされています。

 

また、皮箒にはご使用にあたって面倒な点があります。新品の皮箒は穂先から多少の棕櫚粉がどうしても出ます。新品の皮箒は、外や新聞紙の上などで、穂先を手で払うなどして、出てくる棕櫚粉を落としてから使用します。(当店の棕櫚皮箒の場合、念入りに粉を除去しておりますので、中には初回ご使用時から粉は気にならなかった、というお客様もいらっしゃいましたが、通常3、4回の掃除のうちに棕櫚粉のことは気にならなくなるようです)少しでも早く粉が出ないようにするためには、外や新聞紙の上などで皮箒の穂先を手で払うという作業を何度か繰り返してください。

6.棕櫚箒の耐久年数  使い古した座敷箒は土間や外掃き用に再利用していました

「棕櫚箒は何年くらい使えますか?」とお客様に聞かれて、師・桑添は「忘れるほど使えます」と答えていました。「忘れるほど」というのは、「いつ購入したか忘れるほど」「いつから家にあって、どれくらいの期間使っているのか忘れるほど」という意味です。

棕櫚箒に使われている棕櫚の繊維自体は、数十年たってもほとんど性質が変わりませんから、畳・フローリング用の室内箒として何年も使い古して穂先が磨り減った後は、土間や庭を掃く箒として再利用され、箒としてだめになるまでとことん使われていました。


耐久年数については、お客様のご使用・保管状況により大きく異なりますし、箒の種類や作り手によっても変わり、はっきり何年とはいえないのですが、昔からいわれている年数を一応の目安としてご紹介します。(数値はあくまでも実際に使用されていた年数の一例で、平均値ではありません)

 

本鬼毛箒は、15年〜20年以上もつといわれてきました。「本鬼毛箒は一生に3本あれば足りる」といわれていました。近年でも、35年間、畳で使われたという話があります。鬼毛箒は、10年〜15年以上もつといわれています。以前、10年程前に作られた鬼毛箒の竹柄を差し替える修理をしましたが、穂先の棕櫚部分はほとんど傷んでいませんでした。

 

皮箒は、皮の品質と箒の作りによって大きく変わり、上等な箒は10年〜20年、並の箒は2年〜5年といわれていました。当店の皮箒にも「特選」と「上」の2つの品質の箒があり、使用する皮の品質・使用量・箒そのものの作りが異なりますので、耐久年数も異なると思います。8年以上前に製作した皮手箒・上を今も普通に使用しておりますので、当店の皮箒・品質「上」でも5〜8年以上は使えそうです。(品質「並」は皮目の粗く薄い皮を使用し、皮の使用量も少ない箒で、昔、工場や学校用に作られていたそうで、当店では製作していません)

7.当店の棕櫚箒に使用している、棕櫚以外の素材(柄・糸・銅線・鋲・釘・竹・藁など)について

棕櫚鬼毛7玉手箒・特選画像

柄の素材は、黒竹またはヒノキから選んでいただけます

持ち手の柄の素材は、伝統的な和歌山の黒竹に加え、新たに国産ヒノキ材をご用意しました。

数年来、一部のお客様から熱烈なご要望をいただいておりました「洋間にしっくり収まる木柄の本格的な棕櫚箒」としてご提案いたします。

ヒノキ柄は、特に「無塗装のままで」とご要望がなければ、ガラス質塗装(艶消し透明)で仕上げており、木の色を生かし、自然な光沢で、手垢汚れや傷に強いので、黒竹柄と同じように掃除にどんどん使っていただけます。(ガラス質塗料は無機質で、揮発性有機化合物を使わず、防汚性、耐水性、不燃性に優れ、木の呼吸を妨げない安全な塗料とのことで採用しました。)

 

ヒノキ柄を採用するまでの試行錯誤についてはこちら

鬼毛蝋引き麻糸画像

 

糸は蝋引き麻糸、銅線はエナメル線を使用しています

 

当店で使用している糸は、昔ながらの天然糸使用の棕櫚箒を復活させたく、蝋引き麻糸を採用しています。

 

師・桑添が初期に使用していた糸は、当時手に入りやすくて丈夫で美しいとされた蝋引き木綿糸なのですが、木綿糸では製作中に切れてしまうことが多く、より強い天然繊維として木綿糸の倍の耐久性とされる麻糸を採用しました(師は近年は蝋引き木綿糸が入手困難で、皮革用の丈夫で美しいポリエステル糸や蝋引きしていない木綿糸を使用)。

 

当店の蝋引き麻糸は黒褐色と麻自然色の2色を使用し、柄の素材にあわせて使い分けています。糸は蝋がたっぷり付いているので、蝋引きしていない同じ色の糸に比べ、濃く暗い色調で、黒褐色の糸は黒色に見えます。蝋引きならではの美しい光沢がありますが、ポリエステルの糸に比べて、蝋の成分に棕櫚の樹脂粉がくっつきやすいです。

 

銅線は、近年の師と同じくエナメル線を使用しています。水に強く、経年変化が少ない銅線です。

 

丸鋲、釘、竹、藁について

丸鋲と釘は、無垢の銅または真鍮製を使用しています。

鋲や釘は、箒がより丈夫で長持ちするよう補強する意味と同時に、装飾も兼ねており、師にならい必要最小限の使用につとめています。

 

竹については、柄の黒竹以外にも用いており、通常は見えませんが、箒の玉(束)と柄をつらぬく竹串(コウガイ)が入っています。自分で近隣の竹林から切り出したモウソウ竹をナタで割って削り用います。

 

藁については、外から見えない所に用いており、餅米の藁で、伝統的に鬼毛箒の玉(束)の芯にだけ、ごく少量用います。近隣の農家の方々から譲っていただいています。鬼毛箒の玉の芯を棕櫚だけで作ると、縛った時に硬く締まりすぎて、竹串に刺さらなくなってしまいます。

余談ですが、当地方で「棕櫚座敷箒を水で丸洗いするのは厳禁」とされているのは、銅線(昔は鉄線)を錆びさせないためだけではなく、この鬼毛箒の芯に少量の藁が入っていることを知っているからです。藁を使った畳も芯まで濡れると駄目になってしまいますが、それと同じで、藁が濡れると乾かすのが難しく、中でいたんでしまいます。

棕櫚箒製作舎のこと

[棕櫚箒製作舎の作る棕櫚箒の形や意匠のルーツ]

当店で作っている棕櫚箒は、和歌山県紀美野町の棕櫚箒職人、桑添勇雄の棕櫚箒(師の箒は和歌山県郷土伝統工芸品指定)の形や意匠、製法を、西尾が弟子としてそのままの形で受け継いだものです。(意匠・細部は独立にあたり若干の変更あり)

(2013年8月追記:和歌山県庁から連絡があり、当店製作の棕櫚箒も「和歌山県郷土伝統工芸品」として製造販売してもよいことになりました。これまで唯一認定されていた師匠・桑添勇雄と同一の技法・工程での製作を同一町内で行っており、差支えないとのことでした。)

 

師・桑添勇雄の棕櫚箒のルーツである、和歌山県における棕櫚箒作りについては、生産がはじまった時代ははっきり伝わっていないのですが、少なくとも江戸時代後期には桑添勇雄商店のある紀美野町のあたり(古称:野上谷)で、すでに生産していたようです。野上谷で製作されてきた棕櫚箒の型自体は、京都を中心に続いてきた関西で一般的な箒の形に該当しますが、細かく見ていくと、箒の玉(束)の大きさのバランスが昔の京都の棕櫚箒とも名古屋の棕櫚箒とも古くから異なっていたそうです。今製作している棕櫚箒のプロポーションは、厳密には、昔からの和歌山独自の型を、師・桑添がより洗練させたものと考えています。

 

古くは全国各地で農家の副業として箒作りをしていましたが、和歌山では昭和に入り戦後になると、野上谷が全国一の棕櫚の産地だったことが大いに関係して、町役場のある動木周辺の集落では一時期、棕櫚箒作りを専業とする個人商店が20軒とも30軒ともいわれるくらい出来ていたそうです。

棕櫚箒作りの多くは小規模な家内工業で、各家庭で製作されました。師匠が箒作りをはじめた30歳当時は、ほとんどの職人は50代以上になり、師匠は一番の若手だったそうです。ごく小さな地域で多くの職人が腕を競い合いました。分業式の作り方で量産型の安価な棕櫚箒を生産する店もあれば、かたや、お誂えの高級品を専門にする職人もいて、互いに反発し時に協力して働く中で、誰よりも良品を作ろうと工夫に工夫を重ね、より掃きやすく、より丈夫で、見た目に美しい箒を追求して、今に続く棕櫚箒の形や意匠ができあがりました。

 

 

[近年の状況について]

私の憧れた、かつての和歌山の棕櫚箒は、野上谷の棕櫚と和歌山県日高の黒竹という2つの地場特産品を生かした、すぐれた商品でした。時代の流れで師の代(数十年前)から肝心の棕櫚原料を中国からの輸入に頼っており、それを知った時はショックでしたし、今も残念に思っています。すでに明治時代から中国産棕櫚原料の輸入が始まっており、当時から輸入棕櫚は良品とされていたそうです。今も確かに良品が含まれており、厳選すれば昔の箒とほとんど変わらない品質の箒が製作できています。

かつては地元産棕櫚の中でも、限られた産地の最上質の原料が箒作りに使われました。それは、色艶が良く柔らかいのに丈夫な性質の棕櫚皮でした。近年では、地元に棕櫚の木がたくさんあっても老木か、長い年月管理されておらず皮は劣化していて箒作りには使えません。また、かつては大量の棕櫚皮の中から厳選して用いることができましたが、今は当時と比べるとごくわずかしかありません。今までのところ、現在の輸入棕櫚と同じレベルの品質の原料すら地元産では手に入らない状況です。その輸入原料も年々入荷が不安定に、価格も高騰しており、先行きを心配していますが、原料が手に入る限りは棕櫚箒作りを続けてまいります。

[棕櫚箒製作舎 職人プロフィール]

棕櫚箒製作舎工房画像 棕櫚箒製作舎の工房

 

棕櫚箒職人 西尾 香織

1976年 広島市生まれ、広島市育ち

広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒後、印刷関係のデザイン事務所に就職。

2002年 和歌山県の風土に魅せられ転居、印刷関係の仕事に就く。この時期、桑添勇雄の棕櫚箒を郷土資料の本で知り、頭から離れなくなる。

2006年 桑添勇雄に弟子入りを許され、桑添勇雄商店で見習い職人として働きはじめる。丸5年の修行期間に、大小合わせて1万本以上の棕櫚箒製作を経験。

2012年 師の許しを得て棕櫚箒職人として独立。棕櫚箒製作舎をはじめる。住宅設計を生業とする夫と共に、紀美野町の山あいの民家をお借りし、農的暮らしをはじめる。